2011年1月31日月曜日

Our life is like that

タウンシップに静寂な時間などないのではないだろうか。いつでもどこからか音楽が爆音で流れ、人びとの話声が聞こえる。犬や鶏の鳴き声、車のエンジンの音。家を建てているときの音、道端で肉を焼く音。すべての音がタウンシップの情景を作り出す。


タウンシップの朝は早く、騒がしい。5時には外から音楽が鳴り出し、人びとが起きて話をしている声がする。
音楽といっても早朝のさわやかな音楽ではなく、若者に人気があるブラックミュージックやクワイト、欧米のヒップホップが流れる。
その音楽は自然にわたしとって目覚まし時計代わりとなり、そしてそれらはまた新しい1日が始まる合図となった。
母親たちが手早く朝食の用意をし、子供たちの学校の制服にアイロンをかける。
朝食はたいてい彼らの主食であるミリミリと呼ばれるトウモロコシの粉に、お湯を多めに入れたポリッジである。それ自体には味がついていないので砂糖とミルクを好みに応じて入れて食べる。

早朝のポケラロードでは乗り合いタクシーのクラクションと乗務員が行き先を告げる
「フィッシュフーーック!フィッシュフーーーック!」
「サイモーーンズターーウン!サイモーーンズターーウン!」
という声が鳴り響き、住民が足早に仕事場へと向かう。

近くの中高級住宅街で家政婦や庭師、ショッピングモール、レストランでの従業員、邸宅やモールの警備員などの仕事をする人々が多く、彼らはこの乗り合いタクシーを使って毎日通う。
乗り合いタクシーは、基本はR6(R1=約13円)でマシプメレレからはどこにでも通えるようなルートを走っている。道路には14人定員以上の乗客を乗せたタクシーや歩いて仕事や学校に向かうタウンシップ住民で溢れ、住民たちは道端で友人と会うと昨日の出来事を話しながら歩いていく。そうして9時前にはタウンシップ内は落ち着いていくのである。

日中は、仕事に就いていない者たちが道路をうろついたり、洗濯や布団を干したりなどの家事する女性や、そして昼間から酒を飲んでいる人びともいる。住民は近くのモールやスパザショップ(日用雑貨店)に買い物に行ったり友人宅を訪ねたりするなどの他、特にやることはない。学校にまだ行っていない子供たちは道端で駆け回って遊んでいる。

天候によって人々の行動も左右される。晴れていて風が強くない日は、人々は道端で戯れ、世間話や噂話を友人とする。
「この前来た誰々はね…」「昨日火事があったみたいよ…」「昨日のドラマ見た?」などだ。通りかかった友人も会話に混ざりどんどんと輪が大きくなっていく。

日中はあまり出入りの少ないスパザショップ(食料・雑貨店)も、夕方になると人びとが夕飯の食糧・食材を買いに集まってくる。

スパザショップでは、タウンシップで生活するための一通りの道具が揃う。
ジャガイモ・トマトは3~5個でR1、オレンジなどの柑橘類1個やバナナ1房はR1で売っている。
その他にも米、食パン、スープの素、そして洗剤やクリームまでばら売りしている。
揃えている商品は店によって異なり、人びとは買うものによって店を変える。
住民たちが店の中に入ってきては、その日その時に最低限必要なものを小銭を出しては買っていく姿がある。友人Dは、毎日ポテト1つとトマト2つ、携帯電話のプリペイドカードであるエアタイム(Airtime)R5分を息子に買いに行かせていた。
その時必要なものを必要な分だけ買う。それが彼女たちの生活のリズムなのである。

スパザショップの外装。



17時頃になると仕事場から人々が帰ってくる。暗くなる前に家に帰り友人や家族と過ごすのがライフスタイルとして成り立っている。
夕方になるとまたも道路に人が戯れ始める。
道端に生肉や野菜、ブラーイや自家製の鶏の足・頭を煮たものを売り始める人が現れ、そして帰宅する人、夕飯を食べに友人宅へ向かう人、そして夕飯を買いに外へ出かける人、お酒を飲む人で溢れだす。

そして音楽は日の入りと同時にボリュームが上がり、人々の騒ぎ声も大きくなっていく。
友人宅や親戚宅を訪ね、ともに夕飯を食べる。
夜に何度も友人宅を訪ねるために、夕飯を多い時に3回食べることもある。
食事の時間帯に来た友人には、夕食を振舞い共に話すのが礼儀であり、相手に対しての好意を表す。
主食はトウモロコシの粉で作ったパップと呼ばれるものと、チキンのトマト煮や野菜に味付けをしたものを添えて食べることが多い。パップの他にもお米やパン、パスタも食べることもある。テレビを見ながら今日出会った出来事をお互いに共有する。


パップとお肉の夕食。


夜中には、シビーン(Shebeen)と呼ばれるタウンシップ内のバーで暴力・殺傷事件が頻繁に起こる。
シビーンとは南アのタウンシップにある酒場である。
壁はトタンでできていて、奥にカウンターがある。大きいスピーカーが天井にあり、音楽はブラックミュージックやクワイト、欧米のヒップホップが爆音で流れる。週末には老若男女問わず多くの住民が安い酒を求めてこの場に集う。


昼間のシビーン。

タウンシップには、職がなくまた人間関係が希薄な住民たちの多くが酒に溺れているため、シビーンではしばしば暴力事件が起こる。
そのためシビーンに近寄らない住民も多い。住民の中には酒は悪の源と考える人もおり、酒を一切飲まない人もいるのである。
酔っ払うと自分自身が制御できなくなり、男たちはレイプをする、そしてHIV/AIDSが蔓延していくのだと、タウンシップの女性たちは語った。

そうしたタウンシップの都市生活の実態を含めて人びとはこう表現する、「これが私たちの生活なのよ(Our life is like that)」と。


火事があった日。ケープタウンは風が強いので、掘立小屋は頻繁に火事にあってしまう。

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